桜で有名な河津の北、天城峠へと続く道の途中にある小さな宿、福田家。
ここは、日本を代表する文豪の一人、川田康成氏か滞在し、「伊豆の踊子」の舞台にもなった文学情緒あふれる老舗旅館だ。
福田家の部屋

いくつかある部屋のうちで魅力的なのは、伊豆の踊子に登場する「私」が宿泊したモデルとなった部屋、
そして、映画化の際に美空ひばりさんや吉永小百合さん、山口百恵さんたち往年の大女優たちが撮影で使った部屋のふたつ。
筆者が泊ったのは前者の方で、なんだか、自分自身が「私」になったような感慨深さに浸ることができた。
他にも太宰治氏が滞在したとされる部屋も展示されており、井伏鱒二氏や三好達治氏等数々の明治文豪たちが訪れた資料も保管されており、本当にここが文豪たちに愛されていた宿であったのだな、と偲ばれた。
福田家の食事

食事はさすが伊豆と言ったところで、新鮮な海の幸や山の幸が堪能でき、特に金目鯛の煮つけは身が柔らかく、口の中でほろほろと溶けてゆく触感が絶妙だった。
締めに登場したワサビご飯は、地元名産のワサビと鰹節が白米にのせられているだけのシンプルな構造だが、素材の味が引き立ついいコンビネーションだった。
福田家の温泉

温泉は、これまた伊豆の踊子にも登場しており、共同浴場と榧風呂の二種類が楽しめる。どちらも入浴中は浴室前に掛けられている札を返す形式となっていて、誰にも邪魔されることなく湯ヶ野温泉を堪能することができる。共同浴場は独占するにはあまりに贅沢なほど広い。榧風呂はこじんまりとはしているが、壁に埋め込まれたパッチワークのようなタイルがかわいらしく、なんだか特別な自分だけの小部屋を見つけた子供のような心持で湯に浸かることができた。
宿泊する際の注意点
正直、特別洗練された接客というわけではないが、どの従業員も等身大のおもてなしをしてくれて、日本人が古くから大切にしてきた心を感じることができた。建物は明治創業というだけあってあちこち傷んではいるが、歩くたびにきしきしいう床など、まるで田舎のおばあちゃんちにでも遊びに来たような感覚になる。夜、眠る時に聞こえてくる川のせせらぎは、なんともが心地よかった。
日本元来のわびさびを心行くまで堪能できる一方、だからこそ、周りにスーパーやコンビニエンスストアといった便利なものは、なにひとつないのは要注意。こういった風情を楽しむ場にそうした利器を求めるのは、却ってマナー違反といったところか。当然、wi-fiなんてものもない。
福田家への行き方
電車で尋ねる場合は、河津駅で降りて数限りあるバスに十数分揺られていく必要がある。レンタカーの場合は、河津駅周辺で借りられるところはないので、下田まで行ってしまった方がいい。そして、駐車場の場所もわかりにくいが、それを探すのも旅の醍醐味として楽しんだ者勝ち。バスで行くにしろ、レンタカーまたは自家用車で行くにしろ、駐車場からもそれなりに歩く。歩くが、宿を発見した時の喜びはひとしおだ。探索を楽しむくらいの心のゆとりを持って、文学世界をゆっくり満喫するのがベスト、そんな宿だった。
宿泊費・予約について
歴史ある宿だが、宿泊費はさほど高くはない。吉永小百合や山口百恵の「伊豆の踊子」ロケに使われた部屋も、¥16,000程度で宿泊可能。(時期にもよる)
宿泊は楽天トラベルから可能です。
じゃらん等他の予約サイトにはプランがありません。
ですが、楽天トラベルには1名様プランもあり1人でも利用しやすいです。
部屋数は多くなく満室になりやすいので予約はお早めに。